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楽器・付属品 91 Comments
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弓の良い素材について

投稿日時:2010年02月10日 19:56
投稿者:catgut(ID:EnASmVI)
一般に弓の材料としてフェルナンブコ(ブラジルボク)が優れているとされて
いますが、フェルナンブコの実態はあまり知られていません。また、トゥルテの時代のフェルナンブコのほうが20世紀のフェルナンブコより良質だったのではないかという説があるようです。このあたりについて検証してみたいと思います。
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Re: 弓の良い素材について

投稿日時:2010年02月21日 10:21
投稿者:catgut(ID:EnASmVI)
コゲさま、

フェルナンブコの密度に関しては「水より重い」ものが一般に良いのは事実なようですが、重ければいいというものでもないようです。先に紹介しましたが、心材のうち外側の色の薄い部分からも良い弓が作れるという報告もあります。

(Mr. Daniel Lombardi) produced bows of excellent quality from blanks made from regions close to the sapwood, thus presenting lighter
colors. Furthermore, higher extractive contents were observed in
D-class sticks, which were of proven low quality.

色が濃いほうが抽出物質が多いはずなので、松永正弘氏の「フェルナンブコの抽出物質が弓に良い」という説と一見矛盾しますが、これも密度と同じく他の要素との関係で最適な量が決まるのでしょう。

ケランジは代替植物の一つですね。「楽器の事典 弓」には書かれていませんが、他の代替材料については杉藤武司氏が書かれています。

・PH材
赤樫を材料に、ホット・プレスで反りをつけながら加圧して、高密度な材質にする。しかし赤樫の良質なものが入手困難になり、プレス機の操作ミスで割れがでた不良品の発生率が高くなり、結局5,6年作り続けただけとなった。

・樹脂浸透方式
輸入したペルナンブコのうち、質が良くないものを改良しようという発想。
「粗悪なペルナンブコの材料に樹脂を注入しながら加熱して硬化させる方法を試みたのです。大手の加工業者と携帯(提携?)して作ったのですが、これはたいへん効果があり、多くのヴァイオリン奏者から好評を得ましたが、3年ほど後に、加工賃が大幅に値上がりしたために、、嫌気がさして挫折してしまいました。」ということです。

pochiさま、ご指摘の通りです。ただ、それでもなぜか「天然もの」を看板にした寿司屋はあっても「蓄養もの」を看板にした寿司屋を見たことはありません。イメージというものは面白いですね。
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Re: 弓の良い素材について

投稿日時:2010年02月21日 12:18
投稿者:catgut(ID:EnASmVI)
私が割と真面目に実現できたら面白いのではないかと思っているのが「アクティブに振動する弓」です。過去にそのようなアイディアがあったかどうか知りませんが、今の技術なら作れそうな気がします。

振動量と振動速度を調整でき、理想的には振動状態をセンスして振動量や振動速度を変化させられれば理想的な弓ができるかもしれません。

仮に実用的にはならないとしても、「良い弓」を作る方法を理解するための実験用として役に立ちそうな気がします。
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Re: 弓の良い素材について

投稿日時:2010年02月22日 01:29
投稿者:南社(ID:KGQ2lSM)
カーボン芯が入ったフェルナンブコBow「フェルボン」はどうでしょうか?
友だちが池袋のお店で買ったのを弾かせてもらったけど、値段のわりには良かった。
「反応の良さ、腰の強さ、耐久性に優れた弓」だそうです。
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Re: 弓の良い素材について

投稿日時:2010年02月22日 07:35
投稿者:catgut(ID:EnASmVI)
南社さま、

私はその弓を使ったことはありませんが、カーボンの腰の強さとフェルナンブコの振動特性を組み合わせれば良い結果が出そうに思えます。

日本でも木を軸として、外側に炭素繊維強化樹脂層を巻きつける形の楽弓の特許が出願されています。
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Re: 弓の良い素材について

投稿日時:2010年02月22日 20:47
投稿者:catgut(ID:EnASmVI)
検索してみると、弓の振動のような「自励振動」をセンスして、振動を
「打ち消す」装置はすでに存在していました。弓の場合は反対に少し
振動を強調できればいいのかもしれません。
(軽く弾いただけで大きな音が出る?)

可変剛性型動吸振装置
ttp://www.j-tokkyo.com/2009/F16F/JP2009-052577.shtml

アメリカでも木に人工的な物質を巻く方式の弓の特許が申請されているようです。
ttp://www.faqs.org/patents/app/20090249937
Patent application title: Laminated Stringed Instrument Bow
Inventors: John Bartholomew
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Re: 弓の良い素材について

投稿日時:2010年02月23日 00:41
投稿者:コゲ(ID:N5eRRzY)
>[42511]
[42511]

Re: 弓の良い素材について

投稿日時:2010年02月21日 10:21
投稿者:catgut(ID:EnASmVI)
コゲさま、

フェルナンブコの密度に関しては「水より重い」ものが一般に良いのは事実なようですが、重ければいいというものでもないようです。先に紹介しましたが、心材のうち外側の色の薄い部分からも良い弓が作れるという報告もあります。

(Mr. Daniel Lombardi) produced bows of excellent quality from blanks made from regions close to the sapwood, thus presenting lighter
colors. Furthermore, higher extractive contents were observed in
D-class sticks, which were of proven low quality.

色が濃いほうが抽出物質が多いはずなので、松永正弘氏の「フェルナンブコの抽出物質が弓に良い」という説と一見矛盾しますが、これも密度と同じく他の要素との関係で最適な量が決まるのでしょう。

ケランジは代替植物の一つですね。「楽器の事典 弓」には書かれていませんが、他の代替材料については杉藤武司氏が書かれています。

・PH材
赤樫を材料に、ホット・プレスで反りをつけながら加圧して、高密度な材質にする。しかし赤樫の良質なものが入手困難になり、プレス機の操作ミスで割れがでた不良品の発生率が高くなり、結局5,6年作り続けただけとなった。

・樹脂浸透方式
輸入したペルナンブコのうち、質が良くないものを改良しようという発想。
「粗悪なペルナンブコの材料に樹脂を注入しながら加熱して硬化させる方法を試みたのです。大手の加工業者と携帯(提携?)して作ったのですが、これはたいへん効果があり、多くのヴァイオリン奏者から好評を得ましたが、3年ほど後に、加工賃が大幅に値上がりしたために、、嫌気がさして挫折してしまいました。」ということです。

pochiさま、ご指摘の通りです。ただ、それでもなぜか「天然もの」を看板にした寿司屋はあっても「蓄養もの」を看板にした寿司屋を見たことはありません。イメージというものは面白いですね。
catgut氏

>心材のうち外側の色の薄い…

それって、現代の「太く重い弓」として良い弓、という事でしょうか。
ではその部材でかつてのオールド弓の様に「細く軽い弓」を作ったらどうなるのでしょう。
太さも、重さも、材料の密度も違うとなると、
「オールド弓の再現は諦めて、
違う設計コンセプトの元に作られた弓」
という事の様に思うのですが。

また、
「密度の高すぎる木は破損し易い」
との説を取っておられましたが、
「密度の高すぎる」とは、
「かつての細く軽いオールド弓に見られるよりも高い密度」
という事でしょうか。それとも、
「かつての細く軽いオールド弓と同じ位高い密度」
という事でしょうか。

「同じ位高い密度」の木で、オールド弓と同じ性能が再現できないとなるとそれは、
「見かけの密度は同じに見えても、物性としては劣っている木」
という事に思えます。

それとも細く軽く作られたオールド弓は、
全てその様な破損の危険を内包しているという事なのでしょうか。
[42519]

Re: 弓の良い素材について

投稿日時:2010年02月23日 01:36
投稿者:catgut(ID:EnASmVI)
コゲさま、
フランソワ・トゥルテの弓は、現代の奏者にとって腰が弱めに感じるものも少なくないようです。

松田淳一氏によると、サントリーコレクションのF.Tourteの最良の弓でさえ、中級者ぐらいだと「弱い弓」と誤解するだろうということです。

ttp://www.daion.ac.jp/museum/kankohbutsu/pdf/23/doc002.pdf
彼らの導き出す答えは「弱い弓」「繊細な弓」という結果になり、また、彼らのみならず、弦楽器修理の専門家(演奏が出来ない専門家に多い)でさえ、「バロックくらいにしか使用してはならない弓」というミスジャッジを犯すことも珍しくないのである。

もう一本のF.Tourteの弓は「また、スティックのスプリングはやや弱めで、良くしなり、材質は柔らかい。この弓の場合、現代のホールでの演奏を実現させるのは難しい。また、中級までのレベルの者が扱うことは困難である。」と評価されています。

violinis.comの掲示板でも、同様の見解があります。

ttp://www.violinist.com/discussion/response.cfm?ID=11356
The great F.X. Tourte produced many octagonal bows that are superb
playing bows that are not stiff (despite the octagonal model).
トゥルテの8角形の弓はあまり硬くない。

ttp://www.violinist.com/discussion/response.cfm?ID=15536
My arcus bow is rather stiff, but as stiff (and stable) as it can get, it can also get nervous (of what my pro violinist friend regarded as, he said the real Tourtes are very soft, but they're also very "nervous").
真作のトゥルテの弓はかなり柔らかいが、ナーバスではない。
[42522]

Re: 弓の良い素材について

投稿日時:2010年02月23日 20:44
投稿者:catgut(ID:EnASmVI)
まだトゥルテの弓はどれも細くて固いと思っている方がいらっしゃるようなので、別のソースを示しておきます。トゥルテが大量に製作した弓には柔らかいものも多数ありますが、そのうちの一握りの「細くて固い」弓が現在高価に流通していると考えられます。

Dr. Ing. Eugen Viktor Follmannのサイトより(音響工学で博士号を取得し現在はブラジルで希少木材の販売を行っているとのこと)
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ttp://www.follmann-tonewoods.com/info.php?lan=e&&con=bow

7. Some experimental data

Testing 12 standard, good and very good bows, among which there was an original Tourte-bow

b) The Tourte-bow was made out of a Pernambuco of medium density ρ = 1,16 kg/dm3) whereas there was other standard bows with densities up to 1,21 kg/dm3.
c) The Tourte-bow was, with only one exception (a weak bow), the lightest of all of them.

12本のトゥルテを含むいろいろなレベルの弓をテストした。トゥルテの木の比重は1.16、並みの弓は1.21だった。トゥルテの弓は12本のうち、1本を除いて最も軽かった。
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著者のAskenfeltは弓の音響学的研究の第一人者です。
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Observations on the violin bow and the interaction with the string(1995年) Askenfelt著

Taste changes slowly over the centuries, however, and today the
classical French bows are perhaps not "stiff' enough for some players.

世紀が(19世紀から20世紀に)かわって(奏者の)好みがゆっくり変化し、(トゥルテらの)フレンチ弓はいくらかの奏者にとっては「固さ」が不十分になったかもしれません。
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もちろん、トゥルテの弓は現在の標準より明らかに軽めでした。
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The Book of the violin(1984年)  Dominic Gill著 p256
Tourte bows tend to be lightweight by modern standards : few of his violin bows exceed an overall weight of 60 grams.
トゥルテの弓は現在の標準より軽い傾向がある。全体の重さが60gを越えるものはほとんどない。
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Re: 弓の良い素材について

投稿日時:2010年02月23日 20:49
投稿者:コゲ(ID:N5eRRzY)
そのトルテの弓は出来た当時からその様な腰だったのか、
200年の間使い込まれた結果その様な腰になったのかにもよりますな。
果たしてその状態は、トルテ本人が意図していたものなのか。

基本的に弓はヘタるものです。
クライスラーは弓毛をパンパンに張って弾く癖があった為に、
後に彼が手放した時にはすっかりヘタっていて、
後の買い手が全く付かなかったとか。

腰が無くてもいいっていうのなら、
初めから腰の無い低価格の弓でも充分だろって話になりますしねえ。

ふと思ったのですが、以前ご紹介のルッキメーターって、
ルッキ氏のHPに有る映像の、実音を解析して画面表示しているシステムの事でしょうか。
ではその様な弾く人の技量によって音量の変わる様な弓の「音の伝達特性」は、
どのようにデータに反映されるのでしょう。
下手な人が弾いたとして、それでも「音の伝達特性」の数値は高く表示され、良い弓と判断できるのか、
それとも上手な人が弾かないと、やはり「音の伝達特性」の数値も良くならないのか。
[42524]

Re: 弓の良い素材について

投稿日時:2010年02月23日 22:08
投稿者:catgut(ID:EnASmVI)
LUCCHIメーターの値は演奏者の技術は関係ないですよ。

以下にピエール・ギョーム氏の興味深い談話が掲載されていました。

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ttp://www.chaconne.info/05_sapporo/index.htm

もしここに、硬さが適度ですべて同じ硬さ、密度も基準の範囲内の材料が3種類あって、その密度がそれぞれ(基準の範囲内で)①低め、②高め、③中間のものであった場合、その中でGold mountの弓を作る材料を選ぶとしたら③の材料である。②でSilver mountの細身でやわらかめの弓を作る。①でSartoryの様なやや太めのとても強い弓を作る。
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あくまで標準的なものでしょうが、ここでギヨーム氏は「弓の重さの基準はスティックのみの重さでヴァイオリン弓は38.5g」と述べています。以前紹介した通り「楽器の事典 弓」には「1927年にフランスのパリーのコンセルヴァトワールで出版された楽器の専門書のなかから楽弓の規格を拾い上げてみよう。☆ヴァイオリン 55~60g。スティックが35g、馬毛が2~3g。重心の位置は根元から約20cmの個処。(略)50年以前の大本山の弓はさらに軽かったらしい。」とあります。

スティックだけを比較した場合、1927年頃と現在では重さが平均で1割も重くなっているということになります。
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