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弦楽器のイントネーションとアンサンブル | ヴァイオリン掲示板

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弦楽器のイントネーションとアンサンブル

投稿日時:2007年11月10日 16:57
投稿者:スガラボット(ID:QkhEczA)
別スレッドの「重音3度のイントネーション」に関連する話題なのでそちらで発言すべきとも思いましたが、スレ主のcocoさんの元の質問から話題が乖離しすぎるのでこちらで議論させて頂くことにします。

元のスレッドの議論ではバイオリンや弦楽四重奏で重音または和音を弾くとき、へマン著の「弦楽器のイントネーション」の弦楽四重奏の例を引きながら、上の音をピタゴラス律などの旋律的音律で弾き下の音はそれに純正3度または6度で和音を付けるというのが大方のの合意であるように理解しました。

ピタゴラス音律は世界中で昔から琴のような弦楽器の音律として採用され、その旋律姓が良いことが認められています。ただこの音律はハーモニーの観点からは濁りが大きく単旋律の歌以外ではあまり用いられません。現在通常用いられる音律はオクターブを12の半音に均等に等比分割した平均律が主となっています。平均律の5度はピタゴラス5度に比べて1.96セント狭いもののかなり近い値であり、平均律はピタゴラス音律に準じた良好な旋律姓を有するとされています。とはいえ元々がLog2の1/12という無理数の等比列であるためどの和音も完全な響和が得られる筈はなく、特に長三度・単三度の和音を純正にとるには-13.69セント、+15.64セントもずらす必要があります。

重音やアンサンブルにおいてハーモニーを美しく響かせるには、旋律に随伴する3度なり6度なりの音を純正に近くとる必要があり、「重音3度の下の音や2ndVn/Va等の中声部の音はそのように弾くべし」というのが上記の結論ですが、一人で弾く重音の場合はまあそれで困らないとしても、アンサンブルで2ndVn/Vaなどの中声部を弾く立場としては非常に辛いものがあります。なぜならこれらのパートは主旋律があっての随伴音であり、この随伴音のみを旋律として弾くと随分調子外れな歌に聞こえるからです。即ち、主旋律と対旋律という旋律ラインとしての関係は成立し難くなります。

旋律を弾く人から見れば、「俺は美しく歌うからおまえら下々はそれに付けろ」でいいのかも知れませんが、中声部を弾く方もいつもその立場でいいというわけではなく、時には主旋律も廻ってくるのですから、その分析やら切替えが大変で、結局いつも音程に悩み続けることになります。ただ別スレッドの結論のように、今日の日本ではアンサンブルをする場合、プロもアマも関係なくこの考え方が主流となっているように思われます。(そう、僕らビオラ弾きの悩みの一つはここにあるのです。)

ところで先程のピタゴラス音律と平均律の話にも共通するのですが、バイオリンのチューニングをするとき、今時完全5度で4本とも合わせる人はいないと思います。それはA線からD線、G線と低くなるに従って5度が少しずつ広くなっていき平均律からもずれてしまうからです。それでチューニングするとき先生からも少し狭めに合わせるように指導されますが、普通一般的には、ほぼ平均律に合わせるようにチューニングしていることと思います。特にピアノと合わせるときは、殆どの場合ピアノが平均律で調律されているからです。ただ平均律のチューニングだとG線の開放弦に対してE線の開放弦が高すぎてハモらないばかりか、楽器の4本の弦が同時に共鳴する倍音関係にないため、楽器全体の響きが少し損しているように思います。

これを解決するため、ソロや弦楽アンサンブルの場合には調弦を完全5度より少し狭めに合わせることがあります。この手法は弦楽器のの響きを良くすると同時に、弦楽四重奏のレッスンでよく言われる「ビオラとチェロの低弦は少し高めにチューニングするように」という教えとも符合しています。少し高めに合わせた低弦のG音やC音がバイオリンのE線とハモりやすくなるのです。

このチューニングをもう少しシステマティックに行うと、話は古典音律のヴェルクマイスター1のIIIやキルンベルがーIIIといった音律につながっていくのです。こういう古典音律の話を持ち出すとチェンバロのチューニングか古楽お宅の範疇だと考えられがちですが、実はヨーロッパの名門オーケストラや四重奏団には夫々独自にこの様なチューニングシステム(音律)が備わっているのではないかと思われます。よく日本人の演奏家がヨーロッパのオーケストラ団員になると、演奏する音程がはじめの何年かそれまで自分が持っていた音程感と異なることに苦労するという話を聴きますが、それが一つの証だとは言えないでしょうか。

ハイドンがから、モーツアルト、ベートーベン、そしてロマン派に至る音楽の系譜の中では調性感に溢れる曲が創られてきました。この調性感というのは12の音名それぞれの長調・短調合わせて24の調性が独自に有する旋律とハーモニーの色彩感を言います。よく言われるニ長調は祭典的だとかハ短調が悲劇的だとかいうあれのことです。しかし、実は平均律で演奏すると長調と短調の差は勿論ありますが、調の差はピッチの差でしかなく、そこに調毎に異なる共通の色彩感といったものの存在を感じる人は少ない筈です。この調性感はハイドンやモーツアルトが愛好したミーントーン(中全音律)からロマン派に至る音楽に用いられたヴェルクマイスターやキルンベルガー等の古典音律で演奏するときに始めて明確になる概念だと言えます。音律の古典という言葉のイメージとは裏腹にしっかりロマン派の時代まで継承されていたのです。

一つの調で一曲が終わるなら純正律で調律して演奏できます。しかし、途中で転調があると純正律では対応できなくなってしまいます。そこで、一回の調律で各調に対応できるように考え出されたのがこれらの古典音律です。1オクターブに12の鍵盤を用いて、全ての調で和音を純正に響かせることは元々無理なので、不響和になってしまう各音のピッチを少しずつ調整して不快感の少ない美しい響きになるように工夫したのです。これらの音律は一般的に調号(♯や♭)が少ない調では和音が平明に響き、調号が増えるに従って和音に緊張感が加わって旋律性に勝った色彩感になるとされています。この様に演奏に用いる音律と調性感はと切っても切れない関係にあるのです。

A線に比べてD線、G線とC線を平均律より夫々3.5~3.9セントずつ狭めにチューニングすると、低弦は夫々前述のキルンベルがーIII(KB)及びヴェルクマイスター1のIII(VM)になります。またE線をA線に比べて3.5セント狭めにするとKM、完全5度でチューニングするとVMになります。現在はこれらの古典音律をセットできるチューナーがかなり安価に販売されているので、そのつもりになればすぐ試してみることが出来ます。

Vnではよく分からないかも知れませんが、一度このどちらかに調弦してVaなりVcなりをアルバン・ベルクSQやイタリアSQのCDと一緒に弾いてみてください。それぞれのSQがどの音律を採用しているのか正確なところは判りませんが、これと同じ傾向の音律を用いて演奏していることが実感できます。平均律でチューニングしたVaやVcでは決して彼らのハーモニーを共有できないことがお分かりになると思います。(僕がABQとVMで合わせると開放弦のC音のみ自分の方が高すぎる感じがしますから、VMより多分KBの方が近いのだろうと思います。)

弦楽四重奏を演る人は、是非一度こうした音律で各楽器をチューニングしてアンサンブルしてみることをお勧めします。必ずや新しいハーモニーの世界を発見することと思います。こうすれば、それぞれのパートの旋律性も明確で、ハーモニーも純正とは少し異なるかも知れませんが美しい響きを体感することが出来ます。ロマン派なまでの音楽に現れる調性感はこうした古典音律を用いて演奏することによってはじめて現代に蘇らせることが出来るのです。そしてこういう音律で演奏する何よりの歓びは、これまでいつも旋律ラインに従属しなければならなかった随伴音を弾くパートが対等な立場で活き活きとアンサンブル出来るようになることです。
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Re: 弦楽器のイントネーションとアンサンブル

投稿日時:2007年11月25日 11:28
投稿者:QB(ID:KTkTR5I)
>某有名巨大ホールは、厳しいです。

だからこそ、放送技術のShowcaseとして、腕の見せ所なのです。生のこんな音ですら、TVで聞けばこんなにも・・・・
意図して設計していたとしたならば、スバラしい、、、
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Re: 弦楽器のイントネーションとアンサンブル

投稿日時:2007年11月25日 11:57
投稿者:pochi(ID:OVMFIBc)
弾いた事はないけれど、カーネギーホールは音響が悪いと思います。

弾いた事の有るところでは、
ttp://musiccenter.org/images/tours_01.jpg
非常に悪い。

>>音楽家は楽器を鳴らすだけでは半人前、ホール全体を響かせて初めて一丁前というものです。
****上記ホールでは不可能です。

696.5Hzは、GDHGの4重和音なら許せるかも。
修業が足りないのでクァルテットでは頭が狂いそうになります。
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ミーントーンのアンサンブル

投稿日時:2007年11月26日 23:26
投稿者:スガラボット(ID:NjGSU1A)
<pochi>さん、
> 696.5centは、GDHGの4重和音なら許せるかも。(スミマセン、Hzをcentに変えました)

でもカルテットってそれを四人が別々の楽器で弾くようなものですよね。

11/23の休日に純正律音楽研究会の「都電貸し切りコンサート」に行ってきました。 早稲田から三ノ輪まで都電を借り切って、玉木宏樹氏のバイオリンとミーントーンでチューニングしたアイリッシュ・ハープの高木真理子さんのアンサンブルです。モーツアルトのVn協奏曲第3番第2楽章ほかを聴きましたがとても良かったです。 やはりモーツアルトはミーントーン。 都電一両借り切って定員25名の贅沢コンサート、次は12/15と22(土)にもあるようですが皆さんいかがですか?
ttp://www.archi-music.com/tamaki/
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Re: 弦楽器のイントネーションとアンサンブル

投稿日時:2007年11月26日 23:51
投稿者:pochi(ID:OVMFIBc)
スガラボット氏、
有難う。centとHzを間違えるようでは、アルチュハイマーが相当進んでいるのかもしれません。コンサート前日のHPDの静脈注射以来、抗精神薬も服用していないし、マリファナも止めたし、コケインもやめたのに、どうしちゃったんでしょう。LSDの副作用が後年出て来るなんて、そんな事もないと思います。

696.5centがどの様な条件なら最も許せるのかを追求しただけで、700centの方が弾き易い事には変りがありません。GDHGは、702centの時にHが最も問題になる音系ですから、理由は納得できるものです。矢張り、平均律依りも狭い調弦はやめます。

語弊の無い様に書きます。
Aを音叉でとってからなら、そのAを基準にして、重音ではなく単音で、ほぼ平均律に合わせられます。1centは狂っていないと思いますが、実際には弦の線密度は一定ではありませんから、そんなに正確な音程がヴァイオリンから出て居るわけではなく、なんとなく、平均律っぽい調弦も出来るというだけです。ポピュラーの世界でバイトをしていたら、自然に出来る様になりました。当然、重音での完全五度の純正律調弦も出来ますよ。ポピュラーの歌手は、実は、平均律では唄ってはいません。ピタゴラスで唄っています。

天井の高い教会でブルックナーの8番を弾いた時、始めてこんな音楽だったんだと思いました。ステンドグラスから月明かりが差し込んだとき、その美しさは何にも替え難いものでした。和声的には当然ピタゴラスでは弾いて居なかったでしょうね。その時々に応じて、弾き分けるのが当然でしょう。
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